大きな物語

もう一筆。
ポストモダニストのリオタールは先進的な目を持って、現代の資本主義社会をこう表現する。

目的を持って行動せよ(自己実現)
個人の自由の保障(人間の解放)
人は大人になるに連れて成長する(歴史の進歩)

20世紀を振り返ってみると以上のような物語が、人から人へと物語られてきた。

こういった話は、人類全体に関わるという意味で「大きく」、世界の行く末を「物語」るものであった。
ところが、第二次大戦におけるナチズムによるユダヤ人の殺戮、原爆などは、人間の理性の証である科学の暗黒面を暴露し、国家形成そのものが悪を招く可能性を人々に突きつけた。
しかも、先進国では、大量生産、マスメディアや広告の支配、大衆化された都市における個人の埋没などといった高度資本主義社会が誕生する。
そのような社会に於いては、人間は労働力の主体すらではなく、広告によって絶え間なく生み出される欲望に駆り立てられ、大都市に於いて名を失った存在になっている。
この状況に於いては、もはや、かつての大きな物語は信じられない。

こうして、リオタールは、「大きな物語の死」を宣言した。