まず最初に、私は TCG やボードゲームを 20 年以上プレイしている往年のゲーマーです。大小さまざまな TCG 型のゲームをプレイしました。
過去の実績の一例は、BGA のオンラインゲームで『レス・アルカナ』『ヴィア・マジカ』『ジャンプドライブ』で ELO 1位に到達です。
さて『ドミニオン』は名作と言われるデッキ構築ゲームなのに、遊んでいてなぜか大体同じような [圧縮アグロ] の勝ち筋に収束してしまい、モヤモヤしたことはないでしょうか?
20 年以上 TCG とボードゲームを遊び倒した私なりの答えを以下に記述します。
目次
導入:なぜ多くのデッキ構築ゲームにモヤモヤするのか?
ドミニオンが切り開いた功罪:圧縮と単色アグロへの収束
TCG が直面した「構築の形骸化」と「技術介入の限界」
メタゲームとプロアクティブ/リアクティブ
オートバトラーとタブロービルドが到達した「次世代の解答」
まとめ:カードゲームが向かう明るい未来
■導入:なぜ多くのデッキ構築ゲームにモヤモヤするのか?
ドイツのボードゲームでは、TCG (デッキ構築) 系だと『ドミニオン』がパイオニアですよね。ちなみに、同時期に『レース・フォー・ザ・ギャラクシー』や『サンファン』が発売されています。
デッキ構築の始祖『ドミニオン』の基本セットや初期の拡張にフォーカスすると、TCG をプレイするのにカード資産が必要なく、当時約 4000 円で買い切りで何度でもプレイできるという部分が魅力でした。それは、たしかに画期的です。しかし、TCG という観点だと、多くのプレイで [圧縮アグロ] が最も安定・強力になりやすく、他のアーキタイプが相対的に成立しにくいゲームです。TCG には伝統的に、基本的なアーキタイプ (※1) として、アグロ、ミッドレンジ、コントロール、コンボ、ランプというようなものがあります。そのような多様なアーキタイプが許容されず、特定種類のアーキタイプが特に有効なデザインになっており、そこが『ドミニオン』の急所です。
※1 アーキタイプ
原型、雛形の意. 転じて TCG においては、デッキのコンセプトやデッキのギミックを加味した [根本の構成] のことを指す.
ちなみに、『レース・フォー・ザ・ギャラクシー』は基本セットでもいくつかの勝ち筋が用意されているので、TCG でいうところのアーキタイプが複数存在します。
■ドミニオンが切り開いた功罪:圧縮と単色アグロへの収束
また、初期のデッキ構築型のゲームの話に戻します。『ドミニオン』に代表されるほとんどのデッキ構築ゲームは圧縮と単色デッキしか許容されない速度を競うだけのゲームになってしまいがちです。大雑把に言えば、ボードゲームの一般的なデッキ構築ゲームは、多人数ソリティア (※2) に近いのです。デッキトップのめくりが重要で、基本的に (速攻戦略) アグロゲーです。
※2 多人数ソリティア
相互作用が少なく各自が自分のデッキを育てる形態
ボードゲームのデッキ構築ゲームは、TCG 的な研究が効いてるゲームが非常に少ないので、数は限られますが『エミネントドメイン(拡張あり)』『アルナック(拡張あり)』あたりになります。『エミネントドメイン』に関して言えば、TCG で重要な要素が 2 つ組み込まれています。多色デッキの経路が用意されていることと、デッキを厚くしてもゲームが成り立つデザインになっていることです。デッキを厚くという点だと、特定のカードをデッキ内から拾ってくる確定サーチのカードがゲームに組み込まれています。
多色経路について軽く触れると、『エミネントドメイン』は使用するデッキのギミックを単色にして特化するか、複数組み合わせて多色にするかという選択が選べ、多色でないと使用できないカードが複数存在します。『レース・フォー・ザ・ギャラクシー』にしてもそうです。特定カラーのみに特化するか、もしくは複数の色を組み合わせて効果を発揮するかです。
■TCG が直面した「構築の形骸化」と「技術介入の限界」
TCG ではプレイヤーの腕の見せ所は二種類ありますよね。プレイ前のデッキ構築要素とプレイ中の技術介入要素です。しかし、近年の TCG では強いデッキ (つまり環境デッキ) は数日以内に解析され、みんなコピーして使っています。ですので、デッキ構築部分では大体みんな同じになってしまいます。そこで、開発元としてはプレイ中の技術介入要素を増やすカードを多く入れている印象です。具体的にはカードの効果が複数選択できるタイプのカードが最近は多いです。しかし、プレイ中の技術介入要素はすぐに頭打ちになりやすく、いくら選択肢を用意してもテンプレート化されやすいのが実態です。そのため、現状の TCG は試行回数に依存するゲームになっていると私は考えています。ランクを上げるには勝率 6 割のデッキを何回やるかということです。
■メタゲームとプロアクティブ/リアクティブ
私の実感としては TCG は強いデッキを組むゲームというよりメタゲーム (※3) をやるゲームだということです。メタに対応するためにデッキを組むというのが一番面白いところです。その要素が入ってると完成度がぐっと高まるのですが、そういうゲームは非常に稀です。
※3 メタゲーム
ゲームの実際のルールや盤面での対戦そのものではなく、その外側にある流行や心理戦、環境の情報を利用して優位に立とうとする、高次の戦略や駆け引きのこと.
もしくは、プロアクティブかリアクティブかという話になります。プロアクティブは自分のやりたいことを押し付けるタイプで、リアクティブは相手のやりたいことを抑制するタイプです。この両者が成り立つようなデザインとなってるとゲームとして完成度が高いです。
■オートバトラーとタブロービルドが到達した「次世代の解答」
ここで TCG の醍醐味を改めて宣言しますと、私としてはメタゲームを読み切ったり、環境に存在しないとんでもないデッキを作り上げることだと思います。ですから、結局デッキ構築部分が面白さの大半なわけです。それをコピーできないようにした (画一的にならないようにした) のが近年のオートバトラー系のゲームです。アーキタイプも複数用意されていますし、勝ち筋が複数あります。
オートバトラー系のバトルの特徴として、運の介入する要素が非常に少なく、作成したデッキのギミックやメカニズムが 100% 機能することにあります。
TCG はカード資産の概念があるので、昔からやってる人が有利になりがちですよね。その競技性を高めてドラフトに特化したのがオートバトラー系です。こちらが TCG の最先端だと私は感じています。このゲームの優れているところはいくつかありますが、一番優れているのは土地 (マナ) の事故が全く起こらないというところです。
紙の TCG からデジタルカードゲーム (具体的には『ハースストーン』に代表されます) になって大きく変わったのは、土地カードという概念をやめて毎ターン 1 マナ自動的に上がっていくという部分です。これにより、土地カードが引けないという問題がなくなりました。次にそれをさらに推し進めたのがオートバトラー系です。マナを支払うという概念をやめて、すべてのカードをクールダウンという時間管理に変更しました。これによりTCG 用語で言うところの、マナスクリュー (※4) とマナフラッド (※5) が起こらないことが斬新で非常に優れたゲーム体験を作り出しています。これは、エポックメイキングなことです。
※4 マナスクリュー
土地事故の一種で、土地を十分な枚数引けないこと。
※5 マナフラッド
土地事故の一種で、土地を引き過ぎてしまうこと。マナ洪水。
オートバトラー系でおすすめは『The Bazaar』です。色々良い点はあるのですが、特にすごいという点は、3 点あります。
1. カード資産に依存せず買い切りであること。
2. ゲーム内のデッキ構築要素にピボット (※6) が導入されていること。具体的には、ゲーム初期にデッキが完成してもどこかで別のギミックに乗り換えないと勝てなくなってしまう点 (アグロ / 初期の構築運だけでは勝てない)
3. 常にアドリブが要求されること。最終形のデッキがわかっていても、その構成が組めるかどうかは運なので、複製が困難。また、最終形に到達するまでの道中で失敗すると破綻するので、道中のプレイも重要というところです。
※6 ピボット
端的に書けば、デッキ内の構成を劇的に変えること. コアな強み (軸) はそのままに、所有しているカードや手に入ったスキルなどに合わせて、デッキの内容を大きく「方向転換・路線変更」すること.
参考URL:
https://store.steampowered.com/app/1617400/The_Bazaar/
これを翻って考えてみると、オートバトラー系のゲームは『レース・フォー・ザ・ギャラクシー』や『世界の七不思議』のようなタブロービルド系のゲームが原型なのではないかと考えています。ですので、私は『ドミニオン』より『レース・フォー・ザ・ギャラクシー』が良いといいましたので、その系譜でオートバトラー系は好きになったと考えています。
■まとめ:カードゲームが向かう明るい未来
私が今回独自の見解を示しましたが、珍しい記事だと思います。他のボードゲームや TCG 系のブログの記事を見てもこのような内容について触れられている記事はほとんどないと思えます。海外では reddit.com の記事を私は参考にすることが多いです。
システム面の深い議論がコミュニティで活発になりにくい理由の一つとして、ボードゲームや TCG は「その場を楽しく遊ぶエンタメ」であって、ゲームデザインの歴史的進化やシステム的欠陥 (マナ事故やソリティア化) をマクロな視点で定点観測する対象ではないからです。
さて、今回の話のまとめです。
私の話の要点は、以下の 3 つの歴史的・構造的アーク (物語) が交差する先にある未来を指しています:
① 「ソリティア化の呪い」の打破
多くのボードゲームのデッキ構築が「めくり運と圧縮スピードの競争(多人数ソリティア)」で終わりがちなところを、『エミネントドメイン(拡張あり)』や『レース・フォー・ザ・ギャラクシー』のように、メタゲームの応酬やインタラクションが成立するデザインへの進化。
② 「リソース事故と資産の壁」の克服
紙の TCG における構築の形骸化(ネットによるメタの即時解析)や、マナ土地システムが生む理不尽な運要素。またカード資産による不条理。それを、デジタル TCG を経て「オートバトラー系」が完全にシステムレベルで解消したという歴史の必然。
③「タブロービルド = 次世代型システム」としての合流と希望
ドラフトのランダム性を活かしつつも、一度組んだギミックやメカニズムは絶対に事故らず確定動作する「タブロービルド型」や「オートバトラー系」の思想。これが、運の不条理を排除して純粋な構築・戦術力に帰結する「カードゲームの進化の到達点」であり、私が考える今後のゲームデザインが目指すべき理想郷の姿です。
「運の比重の高いパズルや不条理な事故に満ちた旧来の形」から脱却し、「メタゲームの深み、ギミック稼働の確実性、そして純粋な構築の妙が噛み合った、次世代の洗練された競技・対戦体験」へと向かっている開発者達がいると考えています。
The Bazaar などのオートバトラー系のタイトルは賞金をかけたトーナメントはまだ活発ではなく、発展途上のゲームです。特に The Bazaar はまだ日本語化が行われておらず、日本語で書かれた記事も一年以上前となり、まだまだ日本で浸透しているといえません。Steam のアクティブ人口は一万人程度で世界的にはそこそこのプレイヤーが存在します。
さらなる進化が進み、ゲーム性の深堀りやモバイル環境でのゲームプレイできるようになれば、多様性を生み出します。そして、これから世の中に浸透していけばボードゲームへの先祖返りも考えられ相乗効果を生み出し、次の発展が期待できます。これからの動向に私は注目しています。